きっかけは世間で騒がれていたから
手にしたきっかけはベストセラー作品だったから。それとあの「永遠の0」を書いた百田尚樹の作品ですから大ハズレはないだろうと。
作品自体は予想通りの読み応え十分な内容。主人公の国岡の男気と並外れたバイタリティに終始、圧倒されぱなし。
相手が国であろうと官僚だろと容赦なし。間違ったことは徹底的に闘う姿勢に清々しさを感じました。
今なお残る名シーン
自分の中の良作は読了後もしばらく、そのシーンの情景が頭に残っている。この海賊と呼ばれた男もいくつもの名シーンがありました。
その中で特に自分が気に入っているシーンを紹介します。
一休さん的な発想にビックリ
「国岡商店は門司の店やろう。たしか日邦石油の特約店契約で、門司の店は下関で販売したらいかんことになっとったとやなかったか」
「海の上で売ります。海の上なら門司や下関のなかですたい。」
上巻 P285
販売エリア規制がある中で、近隣の下関エリアにも軽油を売りたい。けれど下関は国岡商店の販売エリア外。下関は漁業会社も多く、顧客に抱えれば大きな収益になる。そのような状況下で飛び出したのが、上の名セリフでした。
この話、戦前の話だけれども今でも似たような話はあります。見方をちょっと変えるだけで商売の種になる。そんな気づきを与えてくれる一節でした。
思わず自分も祈った、凍らないで!!
技師は最後の「国岡・新油」と書かれたコップを倒した。コップの中からは最初の粘度の変わらない油がさぁーとこぼれて机に広がった。
上巻 P332
これは弱小企業が、大手企業にとって変わって自社製品を採用されるという痛快な出来事として強く印象に残りました。
納入先はあの満鉄。迎え打つはアメリカの油屋メーカー。極寒の満州の地で鉄道を走らせる満鉄でしたが、寒さが過ぎて、潤滑油が凍結して車軸が焼けきっちゃう訳です。
最初は耳も貸さなかった満鉄も車軸焼失事故を受け、現在使用しているアメリカ製の油と国岡の油を実験。コップを傾けると一方はカッチカッッチ。一方はそのままの粘度を保ち、ドローンと。
こうして国岡商店は海外進出への大きな一歩を踏み出すことに成功し、その後、中国本土で販路を拡大していきます。
ハラハラドキドキ。無事通過してくれ
あと一海里でチャネルを抜けるときだっだ。突然、船体に鈍い衝撃が走ったー座礁だ。
イランから石油の積み出しに成功し、帰路の途中起きた事件です。遠路はるばる命がけでやっとの思いでイランに到着したものの、積み上げ場所はなんと川。海とは違って水深がめちゃくちゃ浅い。一歩間違えれば座礁し、これまでの苦労が水の泡になるわけです。
その描写がまぁリアル。船員と船長のやりとりに当時のもの凄い緊迫した様子が伺えます。
海賊と呼ばれた男で唯一、ハラハラドキドキしたシーンと言っても過言ではありません。
波瀾万丈の人生、国岡の店主
とにかく不屈の精神というのはこの人にあるのかなと思える位。そう簡単には諦めない。窮地に立たされてもあたふたせずに、解決に向けた何かしらの行動を起こす。
実在した人物だからこそ、なおのこと心に深く残ります。他にも痛快なエピソードも数多くあり元気のもらえる一冊でした