モデルは現代美術芸術家の最高峰と呼ばれるゲルハルト・リヒター
ある画家の幼少期から大成功を収める前夜までを描いた作品。内容がかなりリアリティあるものだったので、観賞後に確認した所、とんでもない画家だったことを知り驚きました。
その御方とは現代美術芸術家の最高峰として知られるゲルハルト・リヒター。この御方89歳というお年なのに現役バリバリ。2019年の第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会清水寺で作品も提供しています。
叔母の影響を色濃く映す少年
冒頭はとある美術館のシーン。主人公クルト少年は叔母に連れられ美術館めぐりを頻繁に行っていたのでしょう。この英才教育があったからこそ、彼の才能も開花したと思われます。
ところが、この叔母がなかなかの切れ者と言いますか、人間の理解を超える奇行が目立ち施設に送られことになり、クルトと離れ離れにされてしまいます。
戦時中でナチス政権下では、障害者を安楽死させる政策が行われ、医師の判断の結果、ナチスによって叔母は命を奪われてしまいます。
本人の奇行も芸術の真理を探す行動の一環であり、精神的には何も問題もありませんでしたが、医師から精神障害者と映ってしまったのでしょう。
才能ある人はやっぱりずば抜けています。
戦後、ソ連の占領下で暮らすことなったクルトは看板屋さんに就職します。一生看板屋という職業かと思いきや、当時のボスの粋な計らいで美術大学に進学させてもらいます。
美大でメキメキと力をつけ、その才能は誰もが認める所。ある自治体からは壁画の仕事が舞い込み、彼女も出来てまさに順風満帆と言える人生を過ごしていたのです。なのに・・・。
西ドイツへの亡命を決意。結果的にこれが人生の転機に
自分の作品に対して、どこか違う、これは自分が求める芸術ではないと常日頃から感じていたクルトは、今の安泰の生活を投げ捨てて西ドイツへ行きを決意します。
当時は、まだベルリンの壁が建設される前。電車に乗れば一駅で西側に行けてしまうとハードルの低さでした。
ツテもコネもない環境で妻と2人で、新たな人生を送ることとなったクルト。不安でいっぱいでしょうが、持っている人はやっぱり違います。
年齢的には30歳前後というハンデもり、当時、西ドイツでは最高峰の美大入学は難しいと思われていましたが、教授との面談を見事パスし、晴れて入学することができたのです。
原点回帰が結果的に良かったかも
こんな発想今見ても斬新なんですけどと思うほど、美大生による創作活動は想像をはるかに上回るものばかり。人体にペイントして、規則的にキャンパスに色をつけたり、粘土をてんこ盛りしたり、これが芸術だと言われれば、ウムウムといった感じですが、全くもって理解できないものばかり
そんな周りの学生に感化されたのか、クルトもそれまでの絵画からあらゆる芸術に挑戦します。自分の足跡をつけたり、ペンキをポタポタたらしたり、飛沫を飛ばして不規則なペイントしてみたり。
が、彼の入学を認めた教授の目には、どれも偽物にしか映らなかったようで、自分の作りたいものを作りなさいと厳しい愛の鉄拳制裁を喰らいます。
こうして瞑想すること数ヶ月、彼はこれまで磨いてきた絵画にこそ真実があるということで、ポートレート的な絵画を次々と創作していき、個展も大盛況。こうして世界的芸術家として一歩を踏み始めたのです。
芸術に理解関心のあるマスコミ
彼が個展を開いたときに、記者会見風の質疑応答のシーンがあります。新聞、雑誌などのスタッフから、芸術に造形の深い質問が飛び交い、こんな優れた目利きが多い中で揉まれる環境ってすごいなと思いました。
芸術の歴史が深い欧州というのをあらためて実感した次第です。